骨密度検査と、トランスジェンダードな医学(?)について

久しぶりにGIDカテゴリーで、愚痴でもなく社会論でもないmedicalなレポート。

約2年間、ペラニン・デポー10mgをほぼ週1回のペースで投与されてきたことになる。これによって生じた影響を見るため、骨密度測定を受けることになった。

性ホルモンの骨への影響

女性が更年期以後に特に骨粗鬆症に注意すべきとされているように、性ホルモンは骨密度の維持に大きく影響する。ホルモンが骨生成を促すためである。女性の場合は閉経後、エストロゲンが急減する。それに、アンドロゲンのほうがエストロゲンよりも骨生成促進の効果が高く、もともと性差がある。そのため注意が必要なのだ。

であるからして、GIDホルモン療法を行う際には性ホルモンの人為的投与とそれに伴う性腺のホルモン分泌能低下、その影響を考えねばならない。

行ってきた事

昨日、 埼玉医科大学かわごえクリニック で検査を受けてきた。検査時間が約30分。その他諸々を合わせて、初診で受付に紹介状を出してから会計が済むまで約2時間。費用は1980円だった。

結果としては、骨密度は高いとのこと。同年代の男性と比較して、正常値の上限ぎりぎり。女性と比較すると正常値の上限をやや上回る。

ガイドラインに基づく診療の第2段階(pre-ope, ホルモン投与)の性同一性障害者の場合、このように骨密度が高い傾向にあるそうだ。これは、投与しているものと性腺由来の療法の性ホルモンが作用しているため。一方、SRSを行なうと性腺が無くなることでホルモン濃度が急に下がり、後々骨密度が低くなることもありがちらしい。SRS後数ヵ月で影響が出ることもあるし、10年ほど経って出ることもあるらしい。

そういうわけで、今回は問題なかったけれども、SRS(まだ全然見通しが立たないけれど)の直前と、SRS後1年毎に検査しましょうと言われた。

GIDの場合、男女両方の統計と比較が必要というのがポイントだ。一度、性腺由来のホルモン影響下で骨格が形成され、その後にホルモン療法で反対の性のホルモンを投与する訳であるから。MtFではアンドロゲンが下がりエストロゲンが上がり、トータルでは上がる。FtMではエストロゲンが下がりアンドロゲンが上がり、トータルでは上がる。非性腺由来の性差もあるかもしれないし。だから、難しく、両性と比較して考えねばならない。

医療における性差

こういう性差の話は、骨のようなホルモンに直結するいくつかの領域においては特に重要だけれども、それに限らない。医学におけるgenderというやつやね。「医療社会におけるジェンダー」ではない。「医学におけるジェンダー」だ。

ジェンダー論によれば、西洋医学は歴史的に男性を研究対象としてきた。女性は従であり、「男性のミニチュア」と見なされた。男性の生理モデルをベースに、体格差や体重差といったいくつかの補正を加える形で扱われたという。そして、そこから明らかに逸脱する部分に付いては「婦人科」と言う形でこれを隔離した。

で、ある種のフェミニストは女性のための医学を確立せよと主張する。更にこれにポストモダンあたりが結び付くと、もはや自然科学を超越するソーカル先生に怒られそうな何かになってしまうのだけれども。まぁ、女性を研究の主たる対象に置く医学を構築するっていうこと自体は、医学にとっても一般人にとっても別に悪いことじゃないわな。

GIDにおける医療

閑話休題。かくも、男性に対する医療・生理モデルと女性に対するそれは異なりうる。そして、pre-ope/ホルモン投与状態の性同一性障害者やpost-opeの性同一性障害者はそのどちらにも似てどちらとも異なる。GIDに関する生得説-本質主義が正しければ、ホルモン療法前にあっても解剖学的性別のモデルからは軽微に逸脱している可能性すらある。

典型的二性のモデルについては、ある程度一般常識化しているけれど、性同一性障害者のモデルはまだまだ学術論文で興味深い症例として報告されうるレベルだものね。であるから、性同一性障害者を医療の対象とするにあたっては、専門知識のある医師が両方の性のモデルと比較してよく考える必要があるのだな。

にもかかわらず、医療関係者等からの偏見を恐れて、性同一性障害者が医療から遠ざかるケースもあったりする。GID研究会で、GIDに配慮し性別違和感を無用に刺激しない体制づくりを報告するような病院もあるけれど、まだまだ少ない。

私の場合、小さい頃から掛かっている小児科/内科医師が理解を示してくれたので、内科はそちらに御世話になっている。でも、同じく昔から掛かっていた眼科医からは理解を得られず、摩擦の大きくなってくるのを感じて通院をやめてしまった。

医療関係者には理解を、GID当事者には決して無理はせずに必要であれば専門家を頼ることを、どうか願いたい。