佳嶋作品集 Sheer Magic

さて、やっとこれを語れる。

しばらく前に届いた『 佳嶋作品集 Sheer Magic 』。届いた日は半日これを見て過ごしてしまった。 この前のコミケ で惚れてしまった、 佳嶋さん の作品集。

制服狂時代

「制服狂時代」の作品群は、デザインとしての性質が強いように見える。私が惚れ込んだのは主として絵画的側面だけれども、これはこれで面白い。

「一枚一枚を別個に絵画として見ると、塗りが単色やグラデーションであるためにあまり面白くは無いし、何枚か見ていると体の線を追求しているが故にか、1つところに収束していくように見えて退屈なところはある。でも、シリーズ全体の構成を見れば、秩序立って、その描きかたや見えてくるストーリーが絶妙であることが分かる」って書こうと思っていたけれど、今見直したら、そんなに退屈でもないなー。

(故意だろうけれども)塗りかたのために平面的に見えるのは確かだけれども、全体の構成だけでなくて、一枚一枚を取り出してもやっぱり、この目には惹かれる。構図が単調なのは仕方がないけれど。これは全体の統一性を見るべきで、構図に関しては「連続にかつ別個に見る」っていうような目線が見方として正しくないんだろう。

少女画

「花咲く乙女たちの陰に」と題された章に入ると、構図が急に躍動感を増して(構成としてこのギャップを意図していたのか)、御本人はどう考えているのか知らないけれど私はここからはやっぱりイラストレーションというよりも絵画という言葉を使いたい。モチーフのとりかたといい、構図、表情、それはなるほど「デカダン・アートの新星」と呼ばれるに相応しいと思うのだ。

御本人は「『あとがき』にかえて」において、自己の絵のスタイルの1つとして「理想のボディーライン」を挙げている。曲線美。実際、『GLITTER』にも所収されていた絵を中心に、少女を正面から描いた図は目立つ。その種の絵も、描かれるファッションは素敵だし悪くない。そして、衣装の多様性故に決して図として単調には見えないのだけれど、でも、理想の曲線を追求するあまり唯一なるイデアの正なる射影に収束して欲しくは無い。私としては佳嶋さんの構図の才をもっと買いたい。「断片であり欠片」であると言うもう一つのスタイルにも通じるのだろうけれど、「花咲く乙女たちの陰に」の冒頭から始まるような、あるいはニンフの図にも感じられるような、より不完全なるものを組み合わせた全体の中にかえって完全なるイデアが浮かびあがるような、そういう選択と視点の妙をこそ素晴らしいと言いたい。「東方美人画」の微妙な姿勢のバリエーションや愁いた表情の中にもそういう点での理想の表現を見る。

物語と神話

そしてまた、物語性という、これもまた触れなくてはならない1つの作品スタイルであろう。「七福神」を筆頭に宗教的モチーフをいくつも描いていたり、あるいはそういった背景が明示されない作品であっても、その一枚の中に圧倒的なストーリーが語られる。タッチも、物語の内容もまったく異なる作家であるけれども、私は言葉を超えた言葉を図の中に語る作家としてベクシンスキーに通じるものを感じる。

この語る才が宗教的モチーフと結び付いたときに、その神話体系が持つ背景とあわさって非常に効果的であるのは確かであろう。「七福神」は本書の中でも私が最も圧倒される作品群の1つであるし。本書では仏教/ヴェーダ神道カトリックなどから採ったとおぼしき題材が見られるけれども、佳嶋さんの絵が東方正教会のイコンと結び付いたらどうなるのか、ちょっと興味がある。あとは、「東風」の章の冒頭にあるのは歓喜天、だよね。なんか可愛らしくてこの図も実は本書中でかなりお気に入りではあるけれど、でも歓喜天のもっと混沌とした側面をも佳嶋さんなら描けると思うので、いつか描いてほしいなと勝手に願ったりする。