世界線航跡蔵

Mad web programmerのYuguiが技術ネタや日々のあれこれをお送りします。

2015年02月21日

アンダースタンディング・コンピュテーション

アンダースタンディング・コンピュテーション』を監訳者の笹田さんから頂戴したので、読んだ感想をまとめてみる。

この本はRubyを用いて計算理論を紹介しようというものだ。具体的には次のようなトピックを扱っている。

  • 形式的意味論
    • 操作的意味論
    • 表示的意味論
  • オートマトンとチョムスキー階層
  • ラムダ計算
  • 停止性問題と計算不能性
  • 静的意味論と型システム

サンプルが丁寧に書かれていて簡単に動作させられること。これが本書の強みだと言える。 正直なところ今までオートマトンはともかく形式的意味論は他の本を何度を読んでもいまいちピンと来なかったのだが、本書のサンプルプログラムを動かして初めて理解が進んだ気がする。

そもそも本文にも書かれているように、ミニ言語の形式的意味論をより強く(曖昧な)言語であるRubyで書いたところで理論的には意味は無い。 意味の定義がRubyの形式的意味論に依存するようになるだけで、問題をより難しくしているに過ぎないことになる*1。 それでも、読みやすく処理系の入手が容易な言語でサンプルを動かすのは学習上の利点は大きいと感じた。

いままで理解がいまいちだった理由にも思い当たった。 意味論にせよオートマトン、ラムダ計算いずれにしても、きちんと理解しようと思ったら結局は実際にステップを追って意味の評価を進めてみるしかないのだろう。 顧みれば、実務でオートマトンを書くのはたまにあることだし、そもそも私は正規表現エンジンを書きたくてプログラミングを覚えたようなものなのでその辺の経験はいくらかあった。 これに対してスモールステップ意味論を意識しながら構文解析することは少ないし、Yaccのような具体的なパーザージェネレータと教科書に出てくる数学的な表記の乖離はオートマトンのそれよりも大きい。 これが理解が進まない原因だったに違いない。

その点、本書はある程度数学的厳密さを放棄してでも読者が手を動かすことを促している。 定義を一つ一つ追って評価してみる手順を紙と鉛筆でやるのはなかなか億劫だが、幸いなことに我々の前には高性能な計算機械があるのでこれを補助に使えばそんなに大変でもない。 そこでRubyを用いた実装なのだ。いろんな入力に反応して実際に意味論が評価され抽象機械が動作するのは見ていて楽しい。

Rubyという言語の選択も悪くない。余分な構文要素や非本質的な処理なしに簡潔にプログラムの意図を書き下せるというRubyの利点が良く活かされている。 ラムダ計算そのものを出自とするいくつかの関数型言語とどちらが良いかは議論の余地があるが、Rubyの良い点を見いだすとすれば「ラムダ計算と異質な表記」であることが挙げられる。 つまり、記述されているものと記述しているものの区別が容易である。

理解をさらに進めるとすればこの後改めて、数学的により厳密な教科書を当たるべきなのだろう。ただ、初心者がまずは手軽に試して概要をつかむための本として良い本だと思った。 本書を読むならば是非サンプルプログラムはすべて実際に動かしてみるべきである。私もまだ動かしていない残りの部分をぼちぼち試してみようと思う。


*1一応Rubyの操作的意味論はISO/IEC 30170に定義されてはいるが、本書のサンプル言語の意味論より明らかに大きく複雑だ


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2014年11月28日

Dockerイメージのフォーマット

  • 問: Dockerイメージはどういうフォーマットなのか
  • 答: 特定のフォーマットはないが転送時はtar

以前の記事では、Dockerはアプリケーション動作環境のファイルステムをまとめて差分転送できると書いた。 ではこのディスクイメージはどういうフォーマットなのだろう。

実装こそ違うが実態としては仮想マシン環境に似ているという点を鑑みると、qcowとか何かその類いのファイルフォーマットなのかもしれないという想像も成り立つ。 しかし実際には特定のフォーマットというものはない。

Dockerホスト環境では、ディスクイメージは動作に適した形で保存されている。このため保存形式はdocker daemonの-storage-driverオプションによって異なる。 つまり--storage-driver=aufsで走っているならローカルファイルシステムのサブディレクトリ内に展開されているし、--storage-driver=devicemapperならblock deviceとして格納されている。 このためdockerコンテナを走らせるときにはただaufsなり何なりをmountするだけで即座にコンテナのファイルシステムを用意できる。イメージを展開したりそのコンテナ用に複製したりする作業は不要なわけだ。

一方、イメージを転送する際には格納方法がまちまちでは困る。そこで転送時は単にファイルシステム内のエントリを(正確に言うと親イメージからの差分を)tarで固めて転送する。 なおdockerイメージには親イメージのIDやコンテナ実行時のデフォルトのコマンドラインなどメタデータも含まれるので、これは別途JSON形式で転送する。 詳しいことはDocker Registry API referenceに書いてある。

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2014年09月23日

Heroku本を読んだ

『プロフェッショナルのための実践Heroku入門』をざっと読んだ。

コンパクトにまとまっていて良い本だと思う。 私が以前1日がかりで調べて回ったこと+αぐらいが書かれているので、読んでおけばそういう調べ回る時間を節約してくれるし。

インストール手順に結構な紙面を割いたりするあたりはあまり好みの構成ではないが、薄い割に触れているトピックが豊富なのは良い。 Herokuの概要、各言語の開発環境セットアップ、Herokuを用いたアプリケーションの開発サイクル、デプロイの仕組み、Addon, Herokuアーキテクチャの外観などに順に触れている。 web開発者ならこれだけ一冊読めばとりあえずHerokuにアプリケーションを立ち上げられるようになるだろう。 ベストプラクティスやアンチパターンについても折々触れているので、読んでおけば先々楽にもなる。

残念なのは、workerプロセスについては名前ぐらいであまり触れていないことだろうか。workerがあればmicroservicesも可能だ思うのだけれども、web dynoからworker dynoにアクセスするにはどうしたら良いのかわからなかった。これは前にHerokuのhelpを調べたときも良くわからなかった。ambasadorパターンしてくれてたりするのだろうか。

これは愚痴だけれども、冒頭の概説におけるGoogle Cloud Platformの扱いが悲しい。

  • IaaSの例としてはGoogle Compute Engineは無視された。紙面には限りもあるので落とされるものがあるのは仕方がないが、ごく個人的な希望としては入れてくれたら嬉しかった。
  • Google AppEngineではRDBが使えない、ということはない。Cloud SQLというのがあって、これは普通のMySQLとして使える。
    • AppEngineではBigDataというKVSしか使えないと書いてあるのはBlobstore (もしくはGoogle Cloud Storage)とDatastoreが混ざってないだろうか。BigDataという製品は今のところ無い。
    • Blobstore/Cloud Storageは要するにS3みたいなものなのでKVSといえばKVSだし、特にBlobstoreのAPIはKVSっぽい。DatastoreはEventually Consistentじゃなくて厳密にtransactionalなHBaseみたいなものなのでKVSとはちょっと違うNoSQL DBだ。

プロフェッショナルのための 実践Heroku入門 プラットフォーム・クラウドを活用したアプリケーション開発と運用 (書籍)

著者
相澤歩, arton, 鳥井雪, 織田敬子
表題
プロフェッショナルのための 実践Heroku入門 プラットフォーム・クラウドを活用したアプリケーション開発と運用 (書籍)
出版者
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
ASIN
4048915134
価格
¥ 1,944

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